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捨て去られた

五月に近い頃であったが、ウィレット老医師はウォード氏の要請で、チャールズ青年と面談した。会見に先立って、カーウィンなる人物に関する事実を――機嫌のよいときのチャールズが洩らす言葉のはしばしから、家族の者たちが拾い集めておいたものにすぎないが――予備知識として聞かされていたにかかわらず、この試みは徒労に終わり、なんの結論もひき出すことができなかった。しかし、チャールズの精神状態が健全そのもので鈣片あり、真に重要な問題に取り組んでいるのは疑いのないところと知るのだった。彼は元来、その青白い顔に、それと感情をあらわすことのないタイプ、困却さえ容易には示そうとせぬ秘密主義的性向の持ち主なのだ。それが、最近のおのれの行動について、追及目的までは明かさぬにしても、ある程度具体的に説明したい気持でいる。そして、彼の語ったところによると、カーウィンと呼ぶ先祖の一人が書き残したものには、修道士ベイコンの発見にも比肩し得る、いや、おそらくはそれを凌駕《りょうが》する重要な秘密、揺藍期の科学知識が、暗号文字によって記されているとのことであった。もちろん、いまは廃絶した中世の学術体系と関連させて考える必要があり、このまま近代科学の洗礼を受けた今日の社会に発表したのでは、せっかくの感動も色褪めるだけであろう。人類の思想史に有意義な地位を獲ちとらすためには、まずもって、それが発展した時代との相関関係をきわめねばならぬ。いまのウォードは、この仕事に一身を捧げている。できるだけすみやかに、古代科学を蘇家興習得したい。それこそ、カーウィン資料を正確に解釈するに不可欠なことである。目下、最大の関心事はここにあって、人類とその思想界にこの真意義を知らせるのが、彼に授けられた使命であり、もし、この使命が達成されたあかつきは、アインシュタイン博士の功績をはるかに超えて、事物の現代的観念に大変革をもたらすことになろう。以上が、ウィレット医師に語ったウォード青年の主張であった。
 そしてウォードは、墓地を探索している事実とその目的を率直にみとめたが、どの程度進捗しているかとなると、口を緘《とざ》して触れようとしなかった。ただ、つぎのようにその意図を説明した。ジョゼフ・カーウィンの墓石には、本人の希《ねが》いによって、ある種の記号が彫りつけてあるはずである。カーウィンの名の抹消をはかった人々も、この記号までは、おそらくその重要性を知らずに、削り落とすのを忘れていたと思う。如新nuskin香港しかもこれが、彼の怪奇な思考体系を最終的に解きほぐす本質的な鍵であるのだ。ウォードの信念によれば、カーウィンはその開発した神秘的世界を後世に伝えようと希《ねが》って、極度に不可解な方法で、各所に資料を分散し、配置しておいたにちがいないのである。
 ウィレット医師が問題の古文書を見たいと望むと、ウォード青年は気のすすまぬ表情を露骨にあらわして、ハッチンソン文書とオーンの書いた呪文と図式の写真コピーを示すことで、その場をつくろおうとした。しかし、老医師の飽くなき懇請に負けて、しぶしぶながら、カーウィンの旧邸から発掘した古文書をとり出した――『日誌および覚書』、暗号文字(その表題もまた暗号だった)、呪文にみちた伝言の書『後から来る者のために』――そして、内部もちらっと見せはしたが、医師の目には、無意味にちかい晦渋な文字の羅列だった。
 ウォードはまた、日誌をひらいてみせたが、周到に、問題のないページを選んだので、ウィレット医師としては、ジョゼフ・カーウィンの筆跡を知ったにすぎなかった。しかし、瞬間的な一瞥のうちにも、錯綜して判読しがたい筆致から、十八世紀まで生きたにせよ、元来は十七世紀の人間である男の文体を感じとり、老医師はただちに、文書の真正であることを容認した。ただし、彼が目にした部分は、比較的末梢的な個所で、断片的に記憶に残っただけで終わった。
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